先輩と海へ行って一週間後。

僕は学校にいた。夏期講習を取っていようと取っていまいと必ず登校しなければならない日だったからだ。

夏休みはまだまだ終わらないってのに。

なんで僕は学校にいなければならないんだろう。

僕は先生の話も授業にならない授業も受ける気がせず屋上にいた。

暑い。太陽は容赦なく照りつける。


大真面目な午後3時


「お。燕彦くん。」

ぼんやりと陽炎の向こうに先輩がいた。

にこにこにこにこして手を振っている。

僕は立つ気も返事をする気にもならずその姿を見つめているだけだった。

背中を預けていたフェンスが身動ぎをしたので小さく音を立てた。

「暑いねー」

「・・・・・・。」

「燕彦くんもさぼり?」

「・・・も?ってことは・・・せんぱいも?」

「輝彦君、呂律が回ってないよ。どのくらいここにいたの?」

乾いた喉から発せられた言葉はもう何年も話してないかのように、全く呂律が回っていなかった。

「うん。私もー。だってさ、勉強するわけでもなくただ単に学校に集まってるんだよ?授業なんかただの先生とのおしゃべりになってるしさ。 受けてる意味ないなーと思ってさ。あ、これ飲む?」

先輩は小さな紙パックのジュースを僕によこした。

「いりません。」

「2個あるからあげるよー」

「・・・なんで2個・・・」

「誰かいるかもしれないなーと思って。」

どこまでいい人なんだろう。この人は。

僕は半ば押しつけられたジュースを受け取って一気に飲みほした。

多少、汗がひいた。それでも太陽は容赦なく照りつける。太陽と言えば。先輩だ。

「先輩。」

「んー?」

「今まで死にそうになったことって何度ありますか。」

「・・・んー・・・初めて死にかけたのは3歳の時かな。そこから考えて4回くらい死にかけたよ。 普通の人間なら必ず即死してるような大きな病気・事故が4回。こないだの事故が5回目。」

すんなりと先輩はストローを咥えながら答えてくれた。

なんなんだ、その回数!

多すぎないか・・・・?神様って死にたがり?え?殺されやすい?

「・・・死にそうになってる回数多くないですか?」

「だよねー・・それは思ったんだよね。ここまでの人生がこんな感じだったら生きて行って後、何回死にかけるんだろうねぇ」

先輩はなんともどうでもよさそうな感じで呟いた。

どうでもいいことじゃないと思うんだけど。

「死にそうになるってどんな感じですか。」

「・・・・不思議な感じだよ。」

「どういうことですか?」

「人の人生なんて簡単に終わっちゃうんだなぁっていっつも思う。」

「先輩は死なないんですか。」

「いいや。死ぬ・・みたいだよ?先代は100歳超えたけど。」

「・・・・・どういうことですか?」

「寿命をまっとうするってことじゃないかな。病気・事故では死なないってこと。必ず老衰で死ぬってこと。」

「・・なるほど。」

「うん。」

「他になにかできることってあるんですか。」

「人間の死期がわかる。」

「・・・・・・・・・・。」

「ああ。この人何歳で死ぬんだなぁ・・って見える。」


「かなしいですね。」 「とってもね。」


「それだけ。ですか。神様のできることは。」

「うん。それだけだね。神様ができることは。いいや、ここにいる私ができることは。」

「上にいる神様のできることはもっとありますよね。」

「そうだね。」

「高みの見物ですね。」

「むかつくね。一発殴りたいよ。」

先輩はそれだけ言うと笑った。僕も    た。

「あ。輝彦君笑った。」

先輩は、珍しいものを見たようにそう呟いた。

人間らしい人間

人間らしい神様

無力の神様

くだらない存在

あいまいな存在

つまらない存在

困った  神様

笑った  人間