電車に揺られて、僕と先輩は海に向かっていた。

図書館で、誘われて。

何も言えなくなった僕を連れて先輩は駅へと急いだ。

海へ向かうために。

4回電車を乗りついで、4回目の電車なんか、車内に誰もいなくて、見えていたビルは消えて、そこには田んぼと森しかなかった。

背後には海が広がっていた。

先輩は海を見て、何がおかしいのかよくわからないけれど声をあげてはしゃいでいた。

僕は海なんか見たくなくて、何がいやなのかよくわからないけれど、口を閉じてそれを横目に見ていた。


畦道と向日葵と2番線


「うみだー!!!うみだよ後輩ー!!!!」

砂浜から先輩は大声で叫んだ。

海岸には誰もいなかった。

夏だというのに。

海開きも終わったというのに。

誰もいなかった。

太陽が痛いくらい照りつけてきた。

僕ははしゃぐ先輩をじっと見ていることぐらいしかやることがなかった。

「うみのばかやろー!!!」

恥ずかしくないのだろうか。

この人は。学校始まって以来の天才生徒と呼ばれる生徒が夏休みに、どうでもいい生徒と一緒に海に来て、はしゃぐって。

誰も想像できないだろう。

「広いね。海!」

「ですね。」

「テンション低いよ?輝彦君。」

「はぁ。ですね。」

「何にもないねー帰り電車あるのかなー」

「さぁ。なくなっても2・3個先の駅まで歩けば帰れますけど。」

「そうなの?」

「はい。」

大きな駅はこの田舎町じゃ3つ先の駅しかない。

「輝彦君。聞きたいことがあるんじゃないのかな?」

「はい?」

「聞きたいこと。」

「・・・・・・・」

ある。目の前で、人が死んでもいいくらいの大きな交通事故があったのにもかかわらずたった二・三時間で復活した理由。

「先輩は・・・・」

でもそれをどうやって切り出したらいいかよくわからなかった。

「先輩は、人間じゃないんですか。」

「・・・・・・」

先輩は一瞬、あっけにとられた顔をした。そして

「あっはっはっ・・にっ・・人間じゃないって・・そうきたか・・やっぱり面白いな。」

「え、あ、いや。その。あれだけ大きな事故にあったのに・・・」

「うーん。人間だよ。人間ではあるんだけどね。」

「はい。」

「実はさ、私」

先輩はとても小さな声で、大切な秘密を教えるように囁いた。

「神様なんだ。」

そしてにこりと笑った。

「は、はぁ?」

「第二十四代目天照大神。姓を晴披。名を露織。」

「だいにじゅうよんだいめあまてらすおおみかみ?」

「せっかくかっこいい感じで言ったのに台無しだよ後輩」

台無しなのは先輩の方だった。

神様みたいな人だと思ってた人が神様だった。

いいや、自称神様。

青い海をバックに先輩は歌うように笑った。

自称神様はなんだかとても、人間らしい神様だった。

帰り道。結局先輩は、子犬のようにはしゃぐのをやめなかったので帰りは大きな駅まで歩くことになったのだ。

先輩は何もなかったかのように畦道を歩いていた。

僕は納得がいってなかった。

そもそも信じる気もしなかった。

けれども、それなら、本当に神様だったら・・・・あの時死ななかったのはよくわかる。

そして、そんな僕の気持ちを彼女に言うのはもう少し先にしようと思っている。

もし、疑ってるなんて言って機嫌を損ねるとまずいことになるからだ。


太陽がなくなっては僕らはとても困るからだ。