8月2日(日)僕は図書館にいた。 何をしに来たかとか何を探しに来ていたとかそんなことはけしてなく、ただ人生の暇つぶしにそこにいた。 夏休みの宿題なんかする気もなくかといって家族でどこかに行くということもなく。 目的は何もない。ただ本当に暇だったからここにいた。 大きな棚から漫画をざっととってきて、机の上に積み上げて読む。 うみとそらのあいまに白いひかりは満ちて そこそこに面白かった。日本の神話をギャグのように漫画にしたものだった。 半分くらいまで来た時、ふと頭を上げる。 ずっと同じ姿勢で本を読んでいたから肩と首が痛い。 時計は12時を指していた。そろそろ帰るか。立ち上がったその時 「帰るの?」 隣にいた女の子がそう言った。 図書館と言えば公共の施設だ。 いろいろな人が集まるところだ。 いちいち隣に座った人なんか関係ないし、意識なんかしない。 「ねぇ。廿九日燕彦くん。うーん。呼びにくいな。燕彦くん、って呼んでもいい? 考えてみれば廿九日も燕彦も珍しいよね。名前的に。うん。ひずめてるひこ。燕って漢字が入ってるのが綺麗だよね。 私、燕って好きなんだ。空を飛ぶシルエットがすごく綺麗じゃない? 雨の降る前にご飯たくさん食べるために低いところを飛ぶところとかずる賢いよね。 駅とかでついつい上に燕の巣がないかどうか確認しちゃうんだー・・・ 燕の小鳥ってあれ?燕の小鳥?あってるのかな・・・まぁいいや。かわいいよね。 一生懸命われ先にご飯もらうために口あけてさ。 そういえば学校にもあるよね。燕の巣。もう、巣立ちしちゃったのかなぁ・・・今度見に行こうよ。 そういえば梶山先生、ほら数学科のきびしー顔したあの先生が燕の巣ずっと見てるんだよ。 お昼休み。なんか意外じゃない?ところで燕彦君。どうしたの?ぼんやりしてさ。 あ、その漫画面白いよね。私も好きだよ。 アマテラスオオミカミって出てくるでしょ?天照大神。 あの神様子供っぽくてかわいいよね。弟が手に負えないから、岩の中に隠れちゃうって。 しかも、外で面白そうなことしてるから出てきちゃうって。 日本の神様って厳しい・・感じするから。ちょっと笑っちゃうよね。 ギリシャ神話の神様なんか人間よりも人間みたいだよ。浮気しまくり。輝彦君は浮気はどう思う?私絶対やだなぁ・・・・」 「僕だって浮気されるのいやですよ。先輩。」 「あ、やっと答えてくれたね。後輩。」 意識なんかしてなかったけど、隣に座ったのは晴披露織先輩だった。 昨日、交通事故に会った人間だった。 そして、僕の、嫌いな、人種の人間だ。 なのに、彼女は僕の顔を見るなり、息継ぎもしたかどうかわからなくなるくらい長い長い一人台詞を。 つらつらと奏でるように話した。あっけにとられて答えられなかった。けど。 「後輩。この後の予定は?」 きらきらした笑顔を浮かべながら先輩は『僕』に話しかける。 「ない、です。」 『僕』は小さく唸るように呟いた。 「そうか。じゃあ後輩。海へ行こう。」 先輩はうれしそうに言った。 「先輩。」 「なぁに?」 「僕は貴方が大嫌いです。」 「私は貴方が大好きです。」 そういって、先輩は笑った。この人は、この人は、何を考えているんだろうか。 「あ、でも恋愛感情には発展してないな。でも私は輝彦君と仲良くなりたいな。」 この人は、本当に、神様みたいな だ。 僕は先輩に嫌いだと言った 先輩は僕に好きだと告げた たったそれだけ。 僕はそれを聞いても先輩を好きにはなれない人種だと思ってる。 でも、それでも 多少は、譲歩して 好きだと告げた先輩の気持ちを慮って 嫌いから→苦手な人種 になろうと思う。 やはり僕は なやつだとぼんやりと思った。 |