晴披はるまき露織つゆり。天宮高校3年。18歳。美人でかわいらしく学年トップをとり続ける女。

性格はお人よしと言ってはなんだがまぁ、人間か疑いたくなるくらいいいやつ。

神様はそれはもう彼女のことを贔屓したらしい。

それに比べ僕は廿九日ひずめ燕彦てるひこ。天宮高校2年。17歳。

根暗で卑屈で最悪なやつ。学力は下から数えた方がましだ。

神様が間違えて作ってしまったような人間。

僕なら、僕みたいなやつと友達にはなりたくない。まして付き合ったりしたくない。

さて。それなのになぜ天と地ほどの差がある僕らが付き合ってるかと問われればそんなこと僕が知りたい。

遡って8月。夏は人をダメにする。

愛も恋も友情も、そんなもの夏が僕らをダメにしただけの話だろう。

愛も恋も友情も、そんなもの全てが全て神のみぞ知ることだから。

全く、神様はものすごく気まぐれなひとらしい。


制服とマリンブルーに揺れる空


8月1日(土)僕はやることもなくやりたいこともなくふらふらと街を歩いていた。

やるべきことはあるけれどやりたくないのだ。留年か仮進級か、と言われてどっちにしてももう後はなく先も見えない状態だ。

なんだか、もうどうでもよくなっている。

空は青い。入道雲が空高く伸びている。

ふと道の向こう側を見ると自分の、天宮高校の制服が見えた。

女子の制服。空色のプリーツスカートと、白いシャツ。空色のリボン。

ああ、そういえば今日は夏期講習だったな、と頭の隅でぼんやりと思った。

僕はそちらに、彼女はこちらに渡ろうと信号を待っていた。

よくよく見ればなんだか知ってるような、知らないような・・・・・

「・・・・・ああ、晴披先輩」

学年トップは当たり前。

天宮高校過去最高成績を叩きだし、将来有望な先輩。

天宮高校の中で知らないやつは潜りだと言われ、性格が悪いかと言えばそんなことはなく全く、神様みたいな先輩だ。

頭がいい=性格が悪いというイメージがあるのでなんだか裏があるような気がして仕方がない。

「僕も相当・・・性格悪いなぁ・・・」

思わず呟いてしまった。

頭が悪くて性格が悪くて悪い処だらけじゃないか。

信号が青になった。空色のプリーツスカートが揺れる。

僕も、そちら側に渡ろうと足を出した。群衆が思い出したように動き出した。

信号は確かに青かった。

なのに、ああ、トラックが、トラックが勢いを上げて、

群衆に突っ込んできた。危ない、危ない、危ない!!

思考が停止する、停止しそうだ。

空色のプリーツスカートが、空高く、飛んだ。

身体が、まるで、ああ、人形のように、空高く、



がしゃ



骨が砕けるような音が

人形が・・人形じゃなくて・・人間が、

晴披先輩が、落ちてきた。

轟音。

叫び声。

急停止。

トラック。

人形。

人間。

真紅。

灰色。

先輩の人生はそこで幕を・・・・・