彼の二人がこうして雷澄山へ行くことになった所以を振り返ろうと思う。

約、1カ月前、旭景が務める部署に人斬りの話が来たところから話は始まった。

そもそも旭景が務める部署は役所の中では曖昧な認識しかされていない。

或るのは皆知っているが、何をしているのかは知らない。

雨霑旭景という男はそれなりの地位でそれなりの人だと知っているが



彼が何をしているのか、わからない。

さて、彼のいる部署は

『人が起こせないような、奇妙な、難解な、不気味な事件を追及し、場合によっては裁き、解決するように。』

とされている。

彼がなぜこの部署の長として大任されるようになったのかは、彼と楪の出会いまでさかのぼらなければならないので

ここでは追求をやめておく。

ともかくそんな部署に確かに「人間」が起こしたような事件の調書が上がってきたのだ。


「・・・・・これは・・ただの、と言っては不謹慎だがここが担当するような事件ではないのではないか?」

「ええ・・・そうでしょうけど・・その。上がこれは旭景殿に、と。」

「・・・調書を見る限りでは普通の人斬りに見えるのだが・・・・?」

「・・・・私も、そう思いましたが・・その・・・死体を見ていただければおわかりになるかと。」

「?」


遠慮がちに言った部下にこれ以上追及するのも哀れかと思い、旭景は現場へと行くことになった。

現場は、川を挟んで大通りとなっている場所だった。場所が場所だけに野次馬が多い。

川べりに人が横たわっている。

御座で何かはわからなかったかが背丈からして死体だろう。


「これか?」

「はい、その・・・旭景殿・・あの・・・えーっと」

「なんだ、はっきり言ってくれ。」

「み、見たら・・・わかりますが・・・その・・私は・・あちらに行ってまいります!」


半ば早口で部下はその場から去って行ってしまった。

残されたのは旭景と死体。

部下が残した青い顔が少しばかり気になるがこれを見ないわけにいかない。


「・・一体何だと言うのだ・・・・。」


そぉっと御座をあげてみた。

齢、三十くらいの男の死体だった。

表情は苦しまなかったのか眠っているようなそんな顔だった。

もう少し御座をあげてみる。

そこで部下が青い顔をしていた理由がはっきりとした。

その男、上半身と下半身が綺麗に切り離されていたのだ。


「・・・・・ふむ。」


合掌してから御座を元へ返した。

その様子を見てか、部下がふらついた足取りで戻ってきた。


「ど、どうでしょう・・・・」

「ふむ。あれは確かに人の仕業ではないな。よほど斬れる刀で、それもものすごい力のある男なら

ああゆうこともできないことはないのだが。早々、そのような刀も男もおらぬ。」

「は、はい、ならばよろしくお願いします。」

「うむ。」

「その・・一つ聞いてもよろしいでしょうか?」

「ん?」

「あれを見て、その、どうも思わなかったのでしょうか?」

「・・・・哀れだと思った。だから俺は犯人を人でなくても挙げなくてはならぬ。」


その言葉を聞いてまだ物を言いたげな部下と

仕事に対する正義感であふれた表情の男が

それぞれ大通りに立っていた。



「ということなのだ!」

「どういうことなのだ・・・・・」

「聞いておったか?寝起きのところ悪いな!しかし、今回ばかり、犯人を挙げねばならぬのだ!」

「・・・・・・うん。そうか・・・頑張ってくれ・・・・」

「ゆずゆず!寝るな!聞いておったか?」

「聞いてた聞いてた。」


未だ、寝巻の浴衣姿のまま客間へと引っ張り出された楪は

肘掛に身体を預けて半ば倒れかけの状態で

いつもよりテンションの高い旭景の相手をしていた。

起こされて1時間。長々と狂気殺人の死体について語り、

だからこそ犯人を捕まえなければならない意志を語り

しかしそれには楪の力が必要だということを語っていた。

「要は、すっぱり上半身と下半身が切れるような刀を、妖刀の中から見つけ出せばいいんだろう。」

「それでは犯人がわからぬではないか!」

「それでは犯人はお前の力で探したんじゃなくて俺の力で探したことになるぜ。」

「・・・・・・・・・・・こちらも犯人の行方を捜す!ゆずはとりあえず刀を探してくれ!」

「ああ、ああ、わかったわかった。」

「では!調査に行ってくる!」

「・・・・おお、行って来い行って来い。」


どすどすと足音を鳴らしながら旭景が去った後の客間では楪がぼんやりと空を眺める。


「さぁて。もうひと眠りするか。」


猫のように緩やかに伸びをすると、またゆらゆらと寝所へと戻って行った。